車は富裕層の住宅街を通り抜け、最も景色の良い場所にある綺麗な邸宅の前で停まった。藤田お爺さんは料金を支払いゆっくりと降車し、別荘のインターホンを押した。
別荘の中では、使用人たちが掃除を終え、主人が不在の一日の仕事も完了していた。
インターホンが鳴り、家政婦が出てきて、藤田お爺さんを見るとすぐにドアを開け、恭しく迎え入れた。
お爺さんは辺りを見回したが鈴木之恵の姿が見えず、直接尋ねた。
「若様のお嫁さんは?」
家政婦は正直に答えた。
「奥様は三日間お帰りになっていません。電話も通じず、藤田くんも連絡が取れないようで、私たちも何が起きたのか分からず、ただ待っているところです。」
家政婦がそう言うと、お爺さんの心配は更に募った。
杖をつきながら、震える足取りで三階に上がった。そこは若夫婦の寝室と子供部屋があった。
二つの子供部屋は丁寧に整えられ、多くは彼が送らせたベビー用品だった。手に取ったベビーラトルを細かく触りながら、主寝室の入り口まで来ると、床に開いたままのスーツケースが目に入った。
スーツケースには鈴木之恵が前夜に詰めた物が入っており、離婚後に戻って続きを片付けるつもりだった。
お爺さんは床に広げられたスーツケースに目を落とした。中には赤ちゃんの服が数着、彼女の卒業証書、重要そうなトロフィー数個、そして大切にしているコレクションが入っていた…
どう見ても去っていく意思が感じられた。
お爺さんの目が次第に冷たくなり、あてにならない孫のことを思うと怒りが込み上げてきた。あの小僧めがきっと何か酷いことをして、嫁を怒らせて離婚させ、家まで放棄させたに違いない。
彼は再び藤田深志に電話をかけ、連絡を試みた。
病院では、今村執事が退院手続きを済ませて出てきたが、お爺さんがどこにもいないことに慌て、柏木正に電話をかけてようやく藤田深志も入院していることを知った。
病室で、今村執事は藤田深志の携帯画面に「お爺さん」という文字が点滅しているのを見て、心臓が飛び出しそうになった。
「藤田くん、絶対に奥様のことをお爺様には言わないでください。お爺様には耐えられません。この数日やっと体調が良くなってきたところで、もうこれ以上のショックは受けられません。」
藤田深志は呆然としていた。事故の前は、一日に二回欠かさずお爺さんの病室を訪れ、叱られていた。