「私からの花、受け取りましたか?」
鈴木之恵は一瞬戸惑って尋ねた。
「どんな花ですか?」
陸田直木は微笑んで、
「カードを見ていないようですね。大丈夫です、私が直接お祝いを伝えに来ました」
鈴木之恵は落ち着きを保とうと努めた。
「陸田さん、お気遣いありがとうございます。でも、私たちはそれほど親しくありませんので、贈り物を受け取る理由がありません。お花はいくらでしたか?秘書に振り込ませます」
彼女の反応は陸田直木の予想通りだった。
陸田直木は少し黙った後、
「鈴木さん、ビジネスの話をさせていただきたいのですが、少しお時間をいただけますか?」
彼がそう言うと、機転の利く二人の助手は自然と姿を消し、ホールには二人だけが残された。
鈴木之恵は依然として表情を硬くしていた。彼女は京都府の誰とも関わりを持ちたくなかった。特に目の前のこの男性は藤田深志の同級生だった。
一人の大人の女性として、彼女は陸田直木の気持ちを察していた。
ただ、以前から彼女は名家の息子たちは遊び人が多いと思っていた。この陸田直木も海外留学から帰国したばかりで、西洋教育を受けているため、きっと落ち着きがないだろうと。
赤ちゃんのお食い初めの式での一瞬の出会いで、彼がこうして追いかけてくるとは思わなかった。
今になって、ジュエリーを注文しに来た陸田さんは、おそらく彼の名門社交界であまり顔を見せない、控えめな性格の妹だったのだと気づいた。
鈴木之恵は知人に自分がまだ生きていることを知られたくなかったが、クルーズ船の上で、陸田直木は親切にも秋山奈緒に気をつけるよう忠告してくれた。そのことには感謝していた。
今、二人の助手が去り、ホールには二人だけが残され、空気は恐ろしいほど静かだった。
鈴木之恵は心の中で葛藤を続けていた。
陸田直木はこの静けさを破って、
「鈴木芽さん、陸田メディアは既に鈴木社長と契約を結んでいます。今後、鈴木家のビジネスで広告塔や宣伝、CMや PR動画が必要な際は、すべて弊社が担当させていただきます。鈴木さんの方で宣伝業務がありましたら、直接私にお任せください。お兄様の方で既に支払いも済んでいますので、使わない手はありません」
彼は真面目にビジネスの話をし、京都府の過去については一切触れなかった。