陸田直木は流石にメディア会社を経営する家の出身だけあって、演技派の本領を発揮し、体重の半分を鈴木由典に預けていた。
鈴木由典は、この若造が妹に近づくのを恐れなければ、本当にゴミ箱に突っ込んでやりたかった。
集浦ホテルまでの数百メートルの距離を、陸田直木というやつに引きずられて二十分近くかかった。鈴木由典はいつ人の世話なんてしたことがあっただろうか?彼の忍耐力は陸田直木をホテルのフロントまで付き添うのがやっとだった。
鈴木由典のその顔はどこに行っても人に認識される。従業員はこの大物が酔っ払いを支えているのを見て、ひどく不機嫌な表情で急いで迎えに来た。
「鈴木社長、お手伝いが必要ですか?」
「このお客様を9201号室までお送りください。ありがとう」
陸田直木は鈴木由典によって従業員の腕の中に投げ込まれるように渡された。従業員が彼を支えて廊下を曲がり、外の兄妹の視界から消えると、彼は一瞬にして正気に戻り、頭も回り、足もしっかりして、従業員の手を払いのけ、もう誰かに支えてもらう必要もなくなり、従業員も戸惑ってしまった。
彼は心の中で不満を漏らした。以前は藤田深志がいて、今度は鈴木由典が現れた。女神を追いかけようとすると、いつも強力な障害物がある。
エレベーターのドアが開き、陸田直木は向かいから出てきた人を見て一瞬固まった。やはり人の悪口は言うものではない。
藤田深志は黒いスーツを着て冷たい表情をしていた。二人は一瞥を交わしたが、藤田深志は彼に挨拶する意思がないようだった。
ビジネスで最も重要なのは信用だ。途中で約束を破る人間には、二度と協力する機会を与えない。たとえ旧友でも相手にしたくなかった。
この時、エレベーターホールでは鈴木由典の話し声がまだ聞こえていた。彼らはまだ遠くに行っていなかった。
陸田直木の心臓は激しく鼓動した。女神を追いかける道のりには既に鈴木由典という障害があり、もし藤田深志まで加わったら、彼は完全に女神と縁遠くなってしまう。
そして、鈴木之恵との二度の接触で、彼女が京都府の人々をどれほど拒絶しているかを知っていた。はっきり言えば、それは藤田深志というクズ男を拒絶しているのだ。鈴木之恵は自分に騙されてホテルに来たのだが、もし二人が出会ってしまったら、後で彼女がどれほど自分を憎むことか。