第230章 新芽工房へ足を運ぶ

鈴木之恵は複雑な思いに駆られ、二人の子供たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。この世に連れてきたのに、健全な家庭を与えられなかったことを。

父親の愛情の欠如は常に彼女の心の中の結び目であり、今やその結び目は自分の二人の可愛い子供たちの心の中にも存在していた。

鈴木之恵は鈴木弘文を抱きしめ、額にキスをした。

「弘文、ママは弘文と妹に申し訳ないわ」

鈴木弘文はママの今の気持ちを理解したかのように、素直に鈴木之恵の胸に寄り添い、小さな大人のように彼女を慰めた。

「ママ、怖がらないで。弘文がママを守るよ。弘文はママが大好き」

鈴木弘文を寝かしつけた後、鈴木之恵は一晩中眠れなかった。突然東京都に来て家を買おうとする人のことが気になり、子供たちを奪われることを恐れていた。二人の子供たちは彼女の命であり、ICUで意識不明だった時の唯一の心配事だった。

翌日、鈴木之恵がオフィスに着くと、木村悦子が一枚の印刷用紙を持ってきた。

鈴木之恵は「退職届」という文字を見て尋ねた。

「退職するの?」

木村悦子は慌てて説明した。

「芽さん、これは関口恵の机の上で見つけたものです。机の上の物は全部そのままで、これだけが残されていました」

関口恵は新芽工房のデザイナーで、年明け前に入社し、半年余り働いていた。

鈴木之恵は驚いた表情を見せた。

「何も言わずに突然来なくなったの?」

木村悦子は率直な性格で、普段から関口恵の仕事中の誰も眼中にない高慢な態度が気に入らなかった。今、人が去った今、誰に遠慮することもなく話した。

「芽さん、彼女が辞めるなら辞めればいいんです。どうせ私たちの大家族に馴染めず、誰とも上手くいっていませんでした」

鈴木之恵は関口恵の手持ちの仕事が引き継がれていないことを心配していた。担当していた顧客の案件がまだ完了しておらず、顧客の要望や好みは彼女が記録していたため、他のデザイナーに直接移行すると、顧客の望むものと違うものができてしまう可能性があった。

新芽工房はここ数年、セレブ妻や令嬢、芸能人などの顧客を開拓してきたが、どの顧客も扱いが難しかった。

「悦子さん、もう一度彼女に電話して、顧客情報を取り寄せて」

「はい、分かりました」

木村悦子は口を尖らせながら出て行き、電話をかけに行った。