第239章 過去形

外で議論の声が聞こえた。

「この人が本当に藤田ジュエリーの社長?テレビで見るよりもかっこいいわね」

「すごい、業界のトップに会えるなんて。芽さんに会いに来たのよ。二人はどういう関係なのかしら?私たちを買収するつもりじゃないでしょうね?」

「やっぱり芽さんは並の人じゃないわ。こんな大物と知り合いなのに、どうして藤田グループでデザイナーをしないのかしら?」

「何も分かってないわね。デザイナーじゃ稼げないでしょう。今は毎日たくさんの注文を受けているのよ。他人の下で働くより稼げるわ」

「そうね。でも芽さんはお金に困ってなさそうよね?」

……

藤田深志はそれらの囁き声を無視し、きれいに掃除された事務所を注意深く観察した。窓の前には例によって風鈴が下がっていた。

机の上のファイルには「鈴木芽」という文字が貼られており、その筆跡は彼女特有の美しさを持っていた。