第237章 訴訟を取り下げよう

鈴木弘美は片隅で遊んでいる間、鈴木由典がようやくソファに座った。

「之恵、何かあったの?」

鈴木之恵は長い間抑えていた感情が、鈴木由典の優しい問いかけで一気に崩れ落ちた。

「お兄ちゃん、藤田深志に会ったの。彼が子供たちを奪いに来るんじゃないかしら?」

鈴木由典の表情が厳しくなった。

「彼があなただと気づいたの?」

鈴木之恵は目を赤くして頷いた。今の彼女は精神状態が極めて悪く、最近の不眠も重なって、心身ともに崩壊寸前だった。

鈴木由典は妹を心配しながら、あの渣男が東京都まで来て家族の平穏な生活を乱すことに怒りを覚えた。

「心配するな。お兄ちゃんだって黙ってないさ。もし子供を奪いに来たら、やつを懲らしめてやる方法はいくらでもある!」

鈴木之恵は目を上げて鈴木由典を見つめた。彼女は兄を信じていたが、心の底の不安は拭えなかった。二人の赤ちゃんをとても大切に思い、秋山奈緒がどんな人間かもよく分かっていた。

もし本当に二人の子供を奪われ、秋山奈緒という継母の手に渡ったら、幸せな子供時代など望めないだろう。

そんなことを考えるだけでも恐ろしかった。

今は頭の中が混乱していた。

兄妹が話をしている間、誰も階段にいる鈴木弘文の小さな姿に気付かなかった。彼はその会話をすべて聞いていた。

ママが不安そうで、クズ父が自分と妹を奪いに来るのを恐れている。これが鈴木弘文が先ほどのママと叔父の会話から得た情報だった。

彼は声を出さずに、そっと階段を上がって部屋に戻り、パソコンを開いて、小さな手でキーボードをカタカタと打ち始めた。

ホテルにて。

藤田深志は雑誌社から入手した風鈴を手に取り、細かく観察していた。今や彼はこの風鈴が鈴木之恵の手によるものだと確信していた。

誰もこれほど器用に、専門店で買ったものよりも繊細な作品を作ることはできない。

柏木正は外で一日中奔走した後、落ち込んだ表情で報告に戻ってきた。

「社長、今日は東京都周辺も全て調べましたが、奥様のお墓は見つかりませんでした。鈴木姓の故人の中にも年齢や性別が一致する方はいませんでした。私たちの探し方が間違っていたのでしょうか?」

藤田深志は手の中の風鈴を見つめながら、苦笑いを浮かべた。

「確かに我々は間違った方向を探していたな。弁護士に訴訟取り下げを伝えてくれ。もう訴えることはない。」