藤田深志の電話が鳴り、柏木正からだった。
「藤田社長、銘瑞黄金の社長が今晩一緒に食事をしたいそうです。私たちと協力したいとのことです。」
藤田グループはジュエリービジネスを展開していたが、金の分野には手を出していなかった。普段なら考慮することもなかったが、今は鈴木之恵が東京都にいるため、この地域でビジネスを展開する必要があると感じていた。
彼はすぐに承諾した。
藤田深志は車を戻し、スーツに着替えた。
ブルーパレスホテル。
銘瑞黄金の社長季山信明は秘書と柏木正と共に、すでに下で出迎えを待っていた。藤田深志の車が到着し、駐車係に鍵を投げた。
一行はホテルに入り、エレベーターに乗った。
「藤田社長、以前からご協力をお願いしたかったんです。ようやく東京都にいらっしゃって、今回はゆっくりお話ができますね。」
季山信明はかなり熱心で、以前からこの大物に接触を試みていたが、何度メッセージを送っても石沈大海で、相手にされなかった。
今回は何故か順調に藤田グループの社長とアポイントが取れ、途中で契約書を取り出して署名してもらいたいくらいだった。
藤田深志は頷いて応じた。確かに東京都でのビジネス展開を本格的に進める必要があった。陸田直木といううるさいデブが本拠地を東京都に移したのだから、何も行動を起こさなければ、妻まで奪われかねない。
エレベーターは最上階で止まり、季山信明が予約した豪華な個室で、ホテルの看板料理を全て注文した。
二人の社長と秘書が席に着くと、給仕が料理を運び始めた。
季山信明は今回本気で、父親が大切にしていた酒を密かに持ち出して藤田深志をもてなした。
杯を交わすうちに、ビジネスの話もほぼまとまった。
全員が少し酔いが回っていた。
季山信明が経営する銘瑞黄金は長年パッとせず、彼が考えた革新的なアイデアも全て芽が出ないうちに消えていった。ここで藤田ジュエリーという大木に寄りかかることができれば、前途は明るい。
大木の陰で涼むのが一番だ。藤田深志という人物のビジネス手腕は、国土を隔てた南方でも轟いていた。
「藤田社長、私たちで新しいサブブランドを立ち上げ、黄金の華やかさとジュエリーの優雅さを組み合わせて、アクセサリー業界で一旗揚げましょう。」