柏木正はアイドルを追っかけることはなかったが、婚約者がアイドルのファンだった。
彼も婚約者を通じてこの半年で人気が出た女優を知ることになった。清純派のイメージで多くのファンを魅了していた。
今の状況は、目に痛いほど酷いものだった。
染川結は藤田深志の怒鳴り声に怯え、前に進めなくなり、裸足で床に立ち、退屈そうに足の指で床をいじっていた。
柏木正はソファーに行き、藤田深志が外したネクタイを取り、彼の後について外に出た。二人がエレベーターを出たところで、藤田深志は胃の中が激しくかき回され、夕食で食べたものを全て吐き出した。
藤田深志は本来、付き合い酒をする必要はなかった。結局のところ、他人が彼にへつらっているだけだった。今日は気分が優れず、鈴木之恵のところで冷遇され、鈴木之恵の冷たい言葉を思い出し、そして彼が陸田直木と楽しく話している様子を見て、言い表せないほどの苦々しさを感じ、自制が効かず、何杯も飲んでしまった。
柏木正は車に戻って水を取ってきた。二人はビルの下で風に当たり、藤田深志の具合が良くなってから車に戻った。
柏木正は運転席に座ると足元に何か違和感を感じ、ポケットを探ると携帯がなかった。
「藤田社長、携帯を上に置き忘れてきました。」
藤田深志は座席に寄りかかって仮眠を取っていた。柏木正は急いで車を降り、三歩を二歩にしてホテルに走った。
最上階の大統領スイートのドアは施錠し忘れて半開きになっており、中から艶めかしい喘ぎ声が聞こえてきた。
柏木正は不安そうに目を上げて確認した。確かにさっきの部屋だった。社長が下で待っているので、今は他のことは気にしていられず、そっとドアを開けた。
彼の携帯は藤田深志が先ほど座っていたソファーの近くにあった。彼は気が進まない様子で中に入った。
部屋の中の情熱的な様子に、思わず顔が赤くなった。
女性は甘い声で喘ぎながら、
「パパ、約束した仕事をくれるって言ったわよね。言った言葉は忘れないでね。」
「集中しなさい。今まで仕事を与えなかったことがあったかい?今回藤田社長との取引が成立すれば、ブランドの代理人契約もあなたのものだよ。」
「あなたたちの取引、大丈夫なの?藤田社長さっき私が部屋にいるのを見て、あまり嬉しそうじゃなかったわ。」
女性は言葉の後に耐えられない呻き声を上げ、