第260章 オフィスの来客

鈴木之恵は鈴木由典の車が目の前に停まるのを見て、ドアを開けて乗り込んだ。彼女は二人の子供が待ちきれずに騒ぎ出すのではないかと本当に心配だった。

「お兄さん、弘文と弘美は昨夜騒がなかった?」

鈴木由典は彼女を頭からつま先まで観察し、元気そうで目立った外傷もないことを確認すると、心配が徐々に和らいでいった。

「二人とも、あなたを待ちきれずに寝てしまったよ。昨日何があったの?なぜ兄に電話をくれなかったの?」

鈴木之恵はため息をつき、

「昨日、仕事帰りに少し危険な目に遭ったの。でも大事には至らなかったわ、もう大丈夫」

「怪我はない?」

鈴木之恵は首を振り、こめかみの髪を耳の後ろにかけながら、

「昨日、海水を少し飲んでしまって、病院で一日経過観察を勧められたの。問題なければ退院できるわ」

鈴木由典は表情を引き締めた。この妹を取り戻すのは容易ではなかったし、祖母は彼女を溺愛している。もし何か不測の事態が起これば、祖母は耐えられないだろう。

「本当に退院していいの?まだ24時間経っていないけど、もう少し様子を見た方がいいんじゃない?」

鈴木之恵は子供たちに会いたくて急いでいた。昨日、弘美にエルサの魔法の杖を買うと約束したのに、あんなことが起きてしまった。

「お兄さん、大丈夫よ。どこも具合が悪くないし、家に帰りたいの」

鈴木由典は車を発進させて家に向かった。

「昨日、藤田深志と一緒だったの?」

鈴木之恵の眉間がピクリと動いた。やはり何も兄から隠せないようだ。

「お兄さん、昨日は彼が暇つぶしに外出していて、偶然私を助けてくれただけよ。病院に連れて行ってくれたの。私が約束したわけじゃないわ」

鈴木由典は妹を信じていた。彼女は嘘をつかない。信用できないのは藤田深志の方だ。あの卑劣な男が仕組んだ罠で、ヒーローを演じて許しを乞おうとしているのかもしれない。

暇つぶしに外出なんて、そんな無理な言い訳を信じる馬鹿はいない。あの野郎が意図的に近づいているに決まっている。

この件は調査が必要だ。

東京都で、鈴木家の者に手を出すとは、命知らずもいいところだ。

車は別荘に到着した。

二人は朝食を食べていたが、少し機嫌が悪そうだった。