第314章 錦園に帰る

鈴木之恵は黙って尋ねた。

「なぜ私に教えてくれなかったの?」

藤田深志は不満げに言った。

「あの時、君に言おうと思ったんだけど、グローブボックスを開けた途端に態度が変わって、何を怒っているのか分からなかった。それ以来、私の助手席には二度と座らないと言って、他の女に譲るって言ったじゃないか」

この件について鈴木之恵は覚えていた。あの時、彼の車で実家に帰る途中、ティッシュを取ろうとしてグローブボックスを開けたら、中は女性用品でいっぱいだった。

それらは彼女が置いたものではなかった。となると秋山奈緒が置いたものに違いない。あの偽善者以外に誰が藤田深志の車に乗れるというの?

彼女はその場で不機嫌になって降りようとしたが、彼が許さず、二人は不愉快な雰囲気のまま実家に戻った。