藤田深志は後部座席のドアを開け、自分も座り込んだ。前の席よりも近くに座れるからだ。
「之恵、もう二人きりだから、話してくれるかな?」
鈴木之恵は軽く咳をして、
「柏木さんを帰らせて何するの?今日はお酒飲んでないでしょう?」
藤田深志の心は温かくなった。やはり彼女は自分のことを心配してくれている。お酒を飲んで具合が悪くなることを心配してくれているのだ。彼は心の中で思った。こんな時に柏木という電球のような邪魔者を残しておく必要なんてない!
今日は特に艶やかで綺麗な装いをしている鈴木之恵を見つめながら、キスしたい衝動を抑えて言った。
「少し遅くなったから、柏木を帰らせたんだ。私が運転できるから。」
鈴木之恵はもう話を続けず、しばらく黙ってから口を開いた。
「藤田さん、あなたの家族は叔父さんの病気のことを知っているの?今、彼は解離性同一性障害なんじゃない?」
藤田深志は一瞬固まった。
「さっき用があるって言ってたのは、これのこと?」
鈴木之恵は心の中で思った。この表情は何?この件は話す価値がないということ?
「叔父さんは心の病気を抱えていると思うの。あなたより深刻よ。ご家族の誰かが管理しているの?医者に診てもらった方がいいんじゃない?」
藤田深志の高鳴っていた心は次第に落ち着いていった。なんだ、彼が興奮していたのは、この女が他の男の話をしようとしていたからか。
藤田晋司が病気なのは当然だ。それも重病だ。どんな正常な人が甥の妻に恋をするというのか?
「また彼が君にしつこく付きまとったのか?」
鈴木之恵は両手を握りしめて言った。
「今日、屋上で会ったの。また意味不明なことを言い出して。まるで別人のように、少し取り憑かれたみたいだった。」
「何を言われたんだ?」
鈴木之恵は深く息を吸い、苦しそうに思い出しながら、
「私と彼がフランスで結婚していたって言うの。それに向こうで不動産も買ったって。しばらくしたら私を連れて行って、フランスで暮らすって……」
藤田深志の全身の神経が張り詰めた。そんな腹立たしい話を聞いて、今すぐ藤田晋司を見つけ出して、顔面を殴りつけたい衝動に駆られた。
「之恵、心配しないで。また彼が近づいてきたら、私に電話してくれ。彼に君に何か悪いことをさせはしない。」