第312章 藤田社長はお兄さんと呼ばれるのが嫌いなの

鈴木之恵と陸田直木は声を聞いて一瞬固まった。そして、耳に聞き覚えのある声が入ってきた。

「あなたは性転換したクジャクなの?誰を見ても自分がきれいかどうか聞くの?」

「嫌だわ、前の奥さんとも同じような話し方してたの?あなたたち二人とも面白くなさそうね。昔はどうやって暮らしてたの?まさかベッドの上でも会話もなく直接やっちゃうの?」

「他人のプライバシーを詮索するのが好きなら、パパラッチにでもなればいいじゃないか。芸能人なんかやめて、私生ファンの方が向いてるぞ!」

「どうしたの、藤田社長はお兄さんって呼ばれるのが嫌なの?私の呼び方が気に入らない?お姉さん系が好みじゃないなら、ロリ声もできるわよ」

「お前、頭おかしいんじゃないのか?」

階段室の外で、清水優紀は藤田深志のスーツの上着をしっかりと掴んで離さなかった。クールな男性は多く見てきたが、所詮は建前に過ぎない。彼女のような魅力的な女性を前にして、本当に心が動かない男性なんているはずがないと信じていた。

偽りの仮面を剥がせば、密室では誰もが紳士ぶった獣になる。

目の前のこの男性は京都府で有名な難攻不落と聞いている。以前のスタイル抜群のモデルでさえ落とせなかったという。それがより一層彼女の挑戦欲をかき立てた。

こういう落としにくい男性が大好きなのだ。

「お兄さん~」

階段室は二人の会話だけが響き、清水優紀のロリ声に他の三人は鳥肌が立った。

藤田深志はこれほどしつこい女性に出会うのは初めてで、まるで野生動物のような執着ぶりだった。

「頭おかしいのか?俺の前でそんな色気を振りまくな!」

藤田深志は最初、清水優紀に悪い印象は持っていなかった。クールで静かな人に見えた。藤田正安から電話があり、清水優紀がパパラッチに囲まれているから助けてほしいと言われた。清水優紀の父親は陶山蓮華の主治医で、恩返しのつもりで来たのだ。

まさか罠だったとは!

この女性のクールで静かな外見の下には、あふれんばかりの色気を秘めた心があり、なんと彼に目をつけていたのだ!

先ほどのダンスの時、鈴木之恵が彼を揶揄った言葉を思い出した。「藤田社長は桃花が多いですね!」この厄介な桃花に彼も辟易していた。