藤田深志は秋山奈緒の手の電子ブレスレットを見て、
「執行猶予じゃないのか、何を走り回ってるんだ?」
「執行猶予でも定期的な妊婦健診は必要よ、上からも許可されてるわ」
藤田深志は唇の端に嘲笑を浮かべ、
「そうだな、大切に守らないとな」
お腹の切り札がなければ、執行猶予なんて得られなかったはずだ。
「邪魔だから、どいてもらえる?行かなきゃならないの」
藤田深志が車のキーを押すと、秋山奈緒は車のボンネットに寄りかかったまま、どく気配を見せなかった。
その時、藤田深志のポケットの携帯が激しく振動した。取り出して見ると、鈴木之恵からの電話だった。出発前に何度も念を押されていた、飛行機が着いたら真っ先に電話するようにと。時間から見て、ちょうど到着したところだろう。
彼はすぐには電話に出ず、秋山奈緒は腕を組んで冷静に彼を見つめていた。数秒後、彼女はボンネットから歩み寄ってきた。