藤田家。
お爺様が退院して二日目だが、外で起きている大騒ぎのことを知らないはずがない。
彼は黙って尋ねなかったのは、自分が選んだ後継者がこの件をどう処理するのか見守りたかったからだ。
処理の結果に満足していた。重要な局面で、藤田深志は彼を失望させなかった。企業が長く存続できるかどうかは、目先の利益だけでなく、舵取り役の本質を見極めることが重要だ。
彼は人を見る目を間違えていなかった。
藤田深志には確かに若かりし頃の自分の風格があった。
お爺様は書斎で今村執事の報告を聞いていた。
「ご主人様、若様はほぼ全て解決されました。ただ、お嬢様の方は少し辛い思いをされることになります。」
お爺様は片手で数珠を回しながら、もう片方の手で目頭のツボを揉み、しばらくしてから尋ねた。
「あの妊婦は無事出産したのか?」
「はい、派遣した者の報告では男児を出産し、無事とのことです。」
今村執事は午前中に病院に様子を見に行かせた。被害者は男の子を産み、母子ともに無事だった。幸い事件発生時には胎児は満期に近く、影響は大きくなかった。
お爺様は無事という言葉を聞いて、ほっとしたように数珠を握りしめた。
「無事で何よりだ。病院に金を送れ。全ての費用は我々が負担する。」
「若様はすでに十分な医療費を立て替え、相手のご家族にも謝罪されました。」
お爺様は満足げに頷いた。
「よく対処した。晴香が出てきたら、直接謝罪に行かせよう。結局これは彼女がしでかしたことだ。誰も代わりにはなれん。」
「ご主人様、以前約束していた木下さんの家族との食事会ですが、今後一ヶ月は都合が悪いとの連絡がありました。」
お爺様は眉を少し上げた。
「晴香の結婚話は一旦保留だ。この時期に皆が避けるのも当然だ。彼女の性格は必ず直さねばならん。晋司はどうした?」
今村執事は少し間を置いて言った。
「藤田社長は一昨日から姿を見せていません。先日は病院でお迎えすると仰っていましたが、屋敷にもいらっしゃいません。おそらく商談でお忙しいのでしょう。」
お爺様は軽く咳をして、「好きにさせておけ。」と言った。
……
夜の10時、藤田深志はまだ鈴木之恵の電話に繋がらなかったが、嬉しいことに弘美から電話がかかってきた。
慌てて電話に出る。
「弘美、パパがママに連絡が取れないんだ。」