柏木正は客を見送って戻ってきてドアをノックした。
「藤田社長、話がまとまりましたら、法務部に契約書の準備を指示しますが、仁田社長と条項の確認が必要になります。」
藤田深志は頷いた。
「契約書はできるだけ早く作成してください。デザイン部と市場部を先に移転させましょう。人事部に全員と面談してもらい、東京都への異動を希望する者には給与を10%増額、希望しない者には3倍の補償金で契約解除とし、こちらで新たに人員を募集してチームを拡充します。」
柏木正は社長の指示を一つ一つメモに取った。
「藤田社長、こちらでも秘書やアシスタントを何名か採用すべきでしょうか?」
藤田深志は仕事に厳格で、彼の下で働くのは容易ではなかった。京都府の秘書部には十数名いたが、忙しい時期には全員が休む暇もないほど働かされていた。