話している間に、警備員が来た。
「何かありましたか?」
カーマグループの従業員たちはお互いを見合わせ、誰も話す勇気がなく、全員が自分の席に戻って仕事をしているふりをした。藤田社長のスキャンダルは聞き流すだけにしておこう。知れば知るほど命が危ない。藤田社長は人を破産まで追い込める人物だ。今日のことは腹の中にしまっておこう。誰も軽々しく話せない。
陶山蓮華は再び部屋の中を見た。鈴木之恵はまだのんびりとデスクに寄りかかり、コーヒーをゆっくりと味わっていた。彼女は今、この女が自分を相手にする気がなく、ただ警備員に対処させようとしているだけだと気づいた。
陶山蓮華は鼻を鳴らした。自分がどんな身分か、あの狐女に追い出されるいわれはない。
「手を出さないで、自分で帰ります!」
陶山蓮華は去る前に息子を一目見た。その目には母親の子供に対する失望が満ちていた。彼女の人生は順風満帆だった。実家は名門ではなかったが、藤田家に嫁ぐことができた。
これまで、藤田お爺さんは彼女の出自を気にすることもなく、むしろ家を切り盛りさせ、実家への援助にも目をつぶってくれた。
人生で唯一の不満は、この言うことを聞かない息子を産んだことだ。この年になっても息子の元妻にいじめられ、これでは奥様方の間で顔が上げられない。
陶山蓮華はカルマジュエリーを出て、地下で弟に電話をかけた。
「私は東京都にいるの。迎えに来て!」
「姉さん、今は仕事中で、抜けられないんです。タクシーを使ってください。」
「あなたの奥さんは家で暇してるでしょう?子供は学校に行ってるし、することないでしょう。迎えに来させなさい。外は暑いから、早く!」
……
陶山蓮華が去ると、オフィスは以前の静けさを取り戻した。
みんな仕事をしているように見えたが、実際にはグループチャットで盛り上がっていた。
【芽さんと藤田社長は元夫婦だったんだ。私たち、ずっと誤解してたのね!】
【まあ、破鏡再び照らすって感じで萌える!藤田社長の「私と之恵の関係は、いつも私が彼女に高嶺の花だった」って言葉聞いた?私たちの芽さん、超クールよ!】
【噂の豪門の姑と嫁の対立ね。藤田社長は一言一句、妻を守ってた。感動する~】
【藤田社長のお母さん、マイナスポイント高すぎ。藤田社長の追妻の道のbiggest障害かも?】