「この番号ずっと料金払ってるの?」
藤田深志は頷いた。朝オフィスに着いたばかりの時、カバンの中から着信音が鳴り、普段なら着信を無視するはずの携帯だった。
見覚えのある番号からの着信を見て、思わず通話ボタンを押してしまった。
「あなたの昔の携帯は私が持ってるわ。修理に出したけど、外装の塗装が剥げた以外は、画面を交換しただけで、他に損傷はないわ」
彼は正直に話し、隠し事はできなかった。
鈴木之恵は息を呑み、4年前のことを思い出した。
「その携帯の中身は...」
「全部残ってる」
「お昼に携帯を返してくれない?」
藤田深志は電話の向こうで数秒沈黙した。
「之恵、この思い出まで奪わないでくれよ」
この携帯は4年間彼の傍にあった。数えきれない不眠の夜、彼女のサブアカウントの音声を聴いては、バッテリーが切れるまで。