第437話 本当に彼女みたいだ

田中晃は手を振って、

「覚さん、何を言ってるんですか、そんなことないですよ」

「まだ隠すの?私が初めてあなたを知ったと思う?手を伸ばせばあなたの考えていることが分かるわ。あれはクライアントよ、しっかりしなさい」

「覚さん、何を言っているんですか。ただあのお姉さんに会ったことがあるような気がしただけです」

マネージャーは更にティッシュを数枚取り出して彼に渡し、

「もういいから、私の前で演技するのはやめなさい。早く身なりを整えて、常に自分のイメージに気を付けなさい。あなたはスターでしょう、アイドルとしての自覚を持って。イケメンだからって好き勝手するんじゃないわよ」

田中晃は顔を拭い、鏡の前でしばらく見つめ、つぶやいた、

「本当に彼女かもしれない」

トイレから出てくると、先ほどの怠惰な様子は一掃され、瞬時に元気な若者に変身した。