鈴木之恵はハンドルを回して車を転回させ、会社の方向へと走らせた。
駐車場に車を停めると、藤田深志がすでにそこで待っていた。
街灯が彼の影を長く伸ばしていた。
鈴木之恵が車から降りると、彼は大きな手を伸ばして彼女の手を取った。
「夕食は済んだ?」
鈴木之恵は手を差し出し、二人は並んで歩き始めた。
「君がいないから、適当に食べただけだよ」
藤田深志が新しく借りたオフィスビルはカルマジュエリーと同じフロアにあり、二人はエレベーターを降りて直接彼の会社へ向かった。
藤田グループの従業員は京都府から一部が移転してきており、この数日で新しい社員も多く採用していた。この時間帯はすでに退社時間で、数百平米のオフィス空間は静まり返っていた。
藤田深志は鈴木之恵の手を引いて、一つ一つの区域を案内しながら説明した。
「之恵、ここが営業部で、こちらがデザイン部。前の空いているスペースは、これから新しい社員が入る予定だ。後々、人事部も一部移転させようと考えている。安定したら、上下のフロアも借りることも検討しているんだ」
鈴木之恵はフロア全体のオフィス空間を見渡した。数日間で既に仕事の雰囲気が漂っており、壁際のホワイトボードには朝のスタンディングミーティングの内容が書かれ、今後の作業進捗や予定が細かく記されていた。
一フロアは京都府の藤田グループ本社ビルのオフィスほど大きくはないが、決して小さくもなく、中規模企業の占有面積に匹敵するほどで、現在はほとんどのデスクが配置されていた。
彼は行動派で、会社を移転すると言えば本当に移転させてしまった。
鈴木之恵は並んだデスクを見つめながら、心が溶けていくような感覚を覚えた。
最初に会社を移転させると聞いた時は感動したが、実際に約束を果たした瞬間を目の当たりにして、心の中がキャンディーでいっぱいになったかのように甘く、喉が詰まりそうになった。
「藤田社長、随分と手際がいいのね!」
彼女は彼の手のひらの中で指先を動かし、今の気持ちをどう表現すればいいのか分からなかった。
藤田深志は彼女の手を握り返し、振り返って深い愛情を込めた目で彼女を見つめた。
「仕方ないだろう、之恵。僕は正式な関係になりたいし、他の男に君を奪われるのも心配なんだ。できるだけ近くで見守っていたい。陸田のデブは君に個人的に話しかけてこなかった?」