第460章 あの女がまた来た

鈴木之恵が話す前に、小川淳が話題を引き継いで、

「之恵ちゃんが久しぶりに会社に来たんだから、みんなで一緒に食事でもして親睦を深めない?」

藤田深志は眉を上げて尋ねた、

「食事で親睦を深める?」

彼は長年会社を経営してきて、部下の扱いに長けていた。従業員の目には、給与が一番大事なものだ。仕事をしっかりこなして、みんなボーナスを手にすれば、それが何より良い。

結局誰もその一食に困っているわけではなく、むしろ上司と一緒に食事すると気が張って、くつろげないものだ。

「ただ親睦を深めるだけじゃないんです。仕事の話は食事の席の方が話しやすいこともありますし、新しい取引先もできたことだし、会社の運営には様々な関係維持が必要ですから」

小川淳のこの言葉に、藤田深志は同意し、之恵に向かって言い直した、

「夜の会食に参加するなら、迎えに行くよ」

「はい」

鈴木之恵がまた尋ねた、

「会社に行かないの?もう遅刻の時間だけど」

藤田深志はポケットに両手を入れ、全体的にくつろいだ様子で、

「こんなに長く休んでたんだから、一度の遅刻くらい気にしないさ」

話している間にエレベーターのドアが開き、三人が降りた。鈴木之恵のオフィスは小川淳の隣で、壁一枚を挟んでいた。

藤田深志は彼女のオフィスをしばらく見回し、ソファやオフィスチェアに座ってみて、さらにその壁を叩いてみた、

「この壁、つながってないよね?」

鈴木之恵は呆れつつも面白く思った。こんなに根拠のない嫉妬をする人もいるものだ。明らかに壁一枚なのに、でたらめを言っている。

「藤田深志、暇なら私の仕事を手伝ってよ」

藤田深志は腕時計を見て、

「あと十分だけいる」

鈴木之恵はパソコンを開いてメールをチェックした。カーマグループからの業務メールが多く、時々秋山実業からのものもあった。

「藤田深志、会社の名前を変えたほうがいいと思わない?」

今では秋山という文字を見るだけで気が滅入る。秋山という姓を持つ人や物事と関わりたくないと思っていた。

藤田深志は頷いて、

「確かに今この名前は少し不適切だね。誰かに頼んで良い名前を考えてもらおう。君が選べばいい」

「いいわね」

二人が話している間、外で騒ぎが起きたようで、誰かがこちらに向かって叫んでいた、

「小川社長、小川社長、あの女がまた騒ぎに来ました」