「藤田深志?」
彼女は何の前触れもなく呼びかけ、藤田深志は顔を下げた。
「ん?」
「あなたは秋山泰成の他の弱みも握っているの?なぜ全部出さないの?」
藤田深志は我に返り、映画がもう終わっていることに気づいた。だから彼女に話しかける余裕があったのだ。
「他にはたいしたものはない。彼の巨額横領に比べれば大したことじゃない。面会室での発言は脅しだった」
鈴木之恵の目に失望の色が浮かんだ。
「本当に彼の弱みを握っていて、秋山泰成の刑を重くできると思ったのに。面会室での話は本当みたいだったのに」
藤田深志は少し黙った。
「あの老いぼれが本当のことを話さないと思ったから、それで脅すしかなかった。実際、私の言葉には矛盾が多かったはずだ。一時的に混乱させただけで、後で考えれば分かったはずだ」
「彼が言った会食の出席者たちは全員知っているの?」
藤田深志は秋山泰成から引き出した重要な情報を整理した。彼が言及した大物たちは皆、叔父世代の人々で、彼自身はよく知らないが、京都の名士たちで、ビジネス上で多少の付き合いはあった。
「知っている」
少し間を置いて、彼は尋ねた。
「之恵、もし実の父親が見つかったら、受け入れる気はある?」
鈴木之恵は父親についてはそれほど執着がなかった。ただ細胞を提供しただけの人を探すよりも、当時何が起きたのかを解明したかった。
できることなら、母親のために正義を取り戻したかった。
「私は母のために真相を明らかにしたいの」
藤田深志はうなずいた。
「一緒に真相を探そう」
翌日、鈴木之恵と藤田深志は別々の道を取り、それぞれの会社へ向かった。せっかく京都に戻ってきたのだから、当然会社に顔を出し、処理すべき仕事を片付けなければならない。
退社時間が近づくと、藤田深志は鈴木之恵のオフィスの下まで車を走らせた。
「之恵、降りてきて」
今日は田中家の老夫人の誕生日パーティーに一緒に行く約束をしていた。事前に準備が必要で、手ぶらでは行けないし、メイクもして適切な服装も選ばなければならない。
鈴木之恵は小川との夕食の誘いを断り、荷物をまとめてエレベーターを降りると、麻色の高級オーダーメイドスーツを着た、気品のある男性が目に入った。
藤田深志は彼女に手を差し出した。
「之恵、何着か服を用意したから、選んでみて」