一方、鈴木之恵と陸田詩子が話をしているところに、後ろから肩を叩かれた。
鈴木之恵が振り向くと、田中晃のあどけない顔が目の前にあった。今日は比較的カジュアルな服装で、清潔感のある青年という印象だった。
田中晃は飛行機の中で一度「お姉さん」と呼んでから、もう二度と鈴木社長とは呼びたくなかった。
「お姉さん、着いたら電話くれるって約束したじゃないですか。僕が迎えに行くって。電話番号、覚えてなかったんですか?」
鈴木之恵は説明した。
「いいえ、玄関に使用人が案内してくれたから、迷うこともないし、わざわざ面倒をかけたくなかったの」
田中晃は髪をかきむしりながら、
「全然面倒じゃないですよ。ずっとお姉さんの連絡を待ってたんです。うちの庭、すごく広いんですよ。ここも退屈だし、案内しましょうか?」