第452章 おやじ

田中晃の綺麗な唇が少し上がり、

「駐車場に停めてあるよ。ここから近いけど、見に行く?」

「行こう」

藤田深志は彼の車に興味があったわけではなく、人目を避けてこいつを説教したかっただけだ。

二人が出て行くと、鈴木之恵は車なんて興味がなく、今はお腹が空いていたので、中に入って何か食べ物を探そうと思った。

「二人とも行ってきて。私は先に入るわ」

鈴木之恵が入るや否や、藤田深志は田中晃を角に引っ張り、彼の頭を軽く叩いた。

「お前、調子に乗ってきたな。義姉さんまで狙うつもりか?」

田中晃は不服そうに、もう彼が先に言い出したのなら、この大魔王様に遠慮する必要はないと思った。

「何を言ってるんだ。誰が義姉さんだよ。まだ結婚してないじゃないか。あんなに素晴らしい人が、なんであんたみたいなおっさんと」

藤田深志は「おっさん」という言葉に刺激され、鷹のような目で目の前の恩知らずな奴を見つめた。昔は自分の後ろをついて回っていた小僧が、今じゃ生意気になって「おっさん」呼ばわりとは!

「昔、いじめられてた時に誰が守ってやったか忘れたのか?」

「そんな昔の話を持ち出すなよ。美人は共有財産だろ。見るのも礼儀正しくしてるし、見るだけじゃなくて追いかけるつもりだ!」

藤田深志は彼の耳をつねりながら聞いた。

「もう一度言ってみろ?」

「殴り殺されても考えは変わらないよ。どうだ?まだあなたの奥さんになってないんだから、みんな公平に競争できる権利があるだろ。なんであんたは追いかけていいのに、他の人はダメなんだ?」

藤田深志はさらに力を込めた。

「よくも!」

「離せよ!俺の耳をダメにしたら、ファンが藤田グループのビルを壊すぞ。俺にどれだけファンがいるか知ってるか?」

その時、藤田深志の携帯が鳴った。

「車は見終わった?こっちそろそろ始まるわよ」

携帯から鈴木之恵の声が聞こえた。

「すぐ行く」

藤田深志は田中晃の耳を離し、しぶしぶ許して大広間へ向かった。

大広間はすでに雰囲気が盛り上がっており、全員が主役のケーキカットを待っていた。

田中家のお婆様はケーキナイフを手に持ち、あたりを見回していた。この場所で唯一の孫がいないのでは、ケーキは絶対に切り始められない。