一方、鈴木之恵と藤田深志は車に乗り込んだ。
鈴木之恵は田中家のお婆さんとは親しかったが、田中清彦とは初対面で、彼に対する印象は悪くなかった。
「田中家と藤田家は取引があるんですか?」
藤田深志は運転しながら彼女の質問に答えた。
「大きな取引はないね。時々小さなプロジェクトに一緒に投資したり、京都府の公益事業をしたりする程度だ。田中社長は正直で信用できる人物で、祖父とも私的な付き合いが良好だった。子供の頃、田中晃はよく父親と一緒に我が家に遊びに来ていたよ。」
鈴木之恵は少し黙ってから再び尋ねた。
「田中社長には奥様がいらっしゃらないんですか?」
「田中晃の母は彼を産んだ後、羊水塞栓症で亡くなった。その後、田中社長は独身のままで再婚はしていない。」
鈴木之恵は感慨深く思った。今時の男性で亡くなった妻のために一生独身を通す人がどれだけいるだろうか。特に田中清彦のような権力と財力を持つ人なら、一度に三人も娶りたがるはずなのに。