鈴木之恵はこめかみを揉みながら、
「30分ほど待ってもらえる?」
藤田深志は答えた、
「問題ないよ。ゆっくりやって、僕が付き合うから」
鈴木之恵は仕事に戻り、忙しさから解放されたのは1時間後のことだった。
藤田深志は本来、彼女を南国レストランに連れて行って新メニューを味わってもらおうと思っていたが、彼女の忙しそうな様子を見て声をかける気にならず、レストランに料理を作らせて、デリバリーを頼んだ。
ちょうど鈴木之恵もお腹が空いていたので、二人は小さな丸テーブルで弁当を広げた。
南国レストランの料理は益々洗練されていた。藤田深志が以前京都府から二人のシェフを引き抜いたのは、本来、鈴木之恵に本場の京料理を食べてもらうためで、利益は度外視していた。レストランで儲けようとも思っていなかった。
しかし、この北方のシェフたちが南に来て、南北の味を融合した新しい料理を研究し、まるで新しい料理系統を生み出したかのようだった。南国レストランは最近とても繁盛していて、毎月の収益も観るべきものがあった。
鈴木之恵は箸を持って美味しそうに食べながら、藤田深志に念を押した、
「明日、弘文と弘美の幼稚園の入園式よ。忘れてない?」
藤田深志は口の中の料理を飲み込んで、
「ちょうどその話をしようと思っていたんだ。明日は何を着ていけばいい?」
少し間を置いて、また尋ねた、
「ペアルックにした方がいい?」
パジャマ以外にペアルックを着たことがないことを思い出し、必要なら食事の後にショッピングモールに行って、閉店前に買いに行こうと考えていた。
鈴木之恵は彼の質問を聞いて、飲み物を吹き出しそうになった。ペアルックと藤田深志を結びつけることができなかったのだ。4年前なら、彼女がこのことを提案していたら、彼は容赦なく、
「誰がそんなくだらないものを着るんだ」と返していただろう。
今は彼自身がそれを言い出すなんて、この落差に鈴木之恵は、彼が柏木正に憑依されているんじゃないかと思ってしまった。そうでなければ、どうして入園式にペアルックを着ていくなんて派手な演出を思いつくだろうか。
彼のクローゼットにはスーツが一番多く、カジュアルウェアは少なめだ。ペアルックなんて彼が着たら、想像するだけで違和感がある。
彼は社長なんだから、スーツの方が彼の雰囲気に合っている。