傍らの木村悦子とデザイナーの島崎は頷きながら、田中晃の言葉に同意した。彼女たちは自分の社長の顔フェチだった。
木村悦子は「芽さん、デビューするなら、その顔だけで芸能界を制覇できますよ。すっぴんでも綺麗なんだから、仕方ないですね、骨格が良いんですから!」
島崎も同意して、
「芽さんの顔は整形外科医の参考になりますよ。芸能界に行けば、間違いなく勝ち組になれます。」
鈴木之恵は自分の部下たちの褒め言葉に少し照れた。社内で言うならまだしも、外でこんなに上司を褒めるものだろうか?
「もういいわ、お二人とも褒めすぎ。私が何の芸能界よ、デザイン業界だけで十分忙しいわ。」
島崎はため息をつき、
「芽さん、自分の顔に対して何か誤解があるんですか?この前私たちが食事に行った時、階下の二人の男性が私たちをずっと付いてきて、藤田社長が来て、お二人が一緒になったのを見てやっと帰ったんですよ。目が釘付けになってました。」
木村悦子は話題を引き継ぎ、
「それ知ってます。後でその人の一人が私たちのビルの下に来て、警備員さんに聞いてたんです。私がたまたま通りかかって全部聞いちゃいました。その人は声をかけたかったみたいですけど、芽さんの隣に藤田社長を見て、自分が場違いだと感じて逃げたんです。」
椅子に座っていた田中晃は、背筋が寒くなるような話を聞いていた。彼は彼女が美しいことを知っていたし、周りに様々な男性が現れることも予想していたが、こんなに大胆だとは思わなかった。路上で彼女をじっと見つめ、ビルまで来て問い合わせるなんて。
今では大魔王様がいてよかったと少し安心している。あの正体不明の二人の男を追い払ってくれたのだから。もし彼女に付きまとわれたらどうなっていたことか。
「鈴木社長、外出時にボディーガードを付けることは考えていませんか?」
ボディーガードと言えば、鈴木之恵の周りには鈴木由典が手配した人が密かに護衛していた。ただしそれは表立っていない。このことは言えない、あまりにも派手すぎるから。
「私は一般人よ、何のボディーガードが必要なの?」
田中晃は黙り込み、何かを考えているようだった。
すぐに、田中晃のメイクが終わり、スタイリストが髪の毛も整えて、普段よりも少し洗練された印象になった。このメイクは撮影向きだが、日常的ではない。