「探してあげるわ」
藤田深志は長い脚を踏み出し、ドアの前で足を止めた。
鈴木之恵は彼の足音が止まり、ドアを開ける気配がないのを聞いて尋ねた。
「どうしたの?」
藤田深志は主寝室の半開きのドアを見ながら、昨日ドアを閉め忘れたかと思い出していた。確かに閉めたはずだ。
おそらく焦っていて記憶違いをしたのだろう。
「何でもない」
彼はそう答え、ドアを開けて出て行き、すぐに携帯を持って戻ってきた。鈴木之恵は彼が出ている間に急いで下着を身につけた。
彼が部屋に入った時、彼女は両手を後ろに回してホックを留めようとしていた。純白のレースのブラジャーに包まれた肌には、彼が噛んだ跡が残っていた。
藤田深志は一瞬目を凝らし、ベッドサイドに歩み寄って、彼女の後ろのホックを留めてあげた。
鈴木之恵は手が空いたので携帯を取り、見てぎょっとした。30件以上の不在着信があり、すべて鈴木由典からのものだった。
鈴木之恵は不安な気持ちで、かけ直したが、コールが終わっても相手は出なかった。彼女は鈴木由典にメッセージを送った。
【お兄ちゃん、昨日デザイン案が終わらなくて会社で寝てたの。心配しないで】
藤田深志は彼女の深刻な表情を見て、思わず尋ねた。
「何か問題でも?」
「昨夜、兄が何十回も電話をかけてきたの。私が帰っていないことに気付いたのかも」
「じゃあ、僕から説明しようか?」
「ダメ...」
鈴木之恵は思わず口走った。彼に説明させたら、事態はより複雑になるだけだ。
「もうメッセージで説明したから」
「わかった。じゃあ、下に行って朝食の材料を取ってくるよ。ゆっくり支度して」
藤田深志はそう言って部屋を出て階下へ向かった。
鈴木之恵が着替えと簡単な身支度を済ませると、鈴木弘美と鈴木弘文も起きてきた。
キッチンでは藤田深志がエプロンを着けて忙しそうに立ち働いており、かすかな食事の香りが漂ってきた。鈴木弘文はお腹をさすりながら、
「ママ、お腹すいた!」
藤田深志は作り終えたワンタンスープを運び出し、さらにサンドイッチと牛乳も用意した。
家族全員が小さなダイニングに座り、鈴木弘文は目の前のワンタンを大きく一口食べると、昨夜のことを思い出した。
「ママ、言うの忘れてた。昨日の夜中に叔父さんがママを探してたよ。ママが電話に出なかったから、僕に電話してきたの」