鈴木之恵が話し終わらないうちに、鈴木由典はソファから立ち上がり、スーツの一番下のボタンを留めた。
「荷物をまとめて、一緒に帰ろう」
今日は特別に早めに仕事を切り上げて鈴木之恵を迎えに来たのだ。もう少し遅かったら、きっとあの藤田のやつめがまとわりついていただろう。今のうちに帰らなければ。
彼は藤田深志のあの気に入らない顔を見たくなかった。
鈴木之恵がパソコンの電源を切り、机の上の物を片付けていると、鈴木由典は既に彼女のコートとバッグを持ってきていた。彼は何も言わなかったが、その姿勢には急かすような雰囲気があった。
鈴木之恵は急いで全てを片付け、彼の後ろについて出て行った。
「来月のお祖母様の誕生日のことだが、叔母さんの手伝いをしてくれないか。家には女性は君たち二人だけだから、こういうことは君たちに任せた方がいい。細かい配慮ができるからね。何か困ったことがあったら兄さんに言ってくれ」
鈴木之恵は頷いた。
「叔母さんは一昨日、料理の手配を私に任せてくれました。今メニューを考えているところです」
「予算は十分あるから、豪華にしても構わない。必要な食材は早めに注文しておくように。来賓リストは明日渡すから、それで必要な量が大体わかるだろう。それと...」
鈴木由典は言いかけて躊躇い、少し迷った後で後半の言葉を口にした。
「お祖母様が今回大々的に祝うのは、優秀な若者を選びたいという目的もあるんだ。適当な人がいれば君に選んでもらいたい。この京都府では、我が鈴木家が高嶺の花というような家族はないから、誰か良さそうな人がいたら直接お祖母様に言えば、何とか手配してくれるだろう」
鈴木之恵が藤田深志のために何か言おうとした時、鈴木由典の電話が鳴った。部下からの仕事の連絡だった。
彼女は黙るしかなく、また良い機会を見つけてこの件について鈴木由典と話すことにした。
一方、藤田深志はオフィスで激しくくしゃみを数回した。
今日の夜までのトレンド入りも、彼がお金を払って取り下げさせた。相手が何回上げても、彼はその度に取り下げさせる。要は誰の金力が勝るかという勝負で、最後には相手が折れた。
藤田深志は執務椅子に座り、暗い表情を浮かべていた。柏木正が仕事の報告に来て、一気に話を済ませ、社長の指示を待っていた。