鈴木之恵が話し終わらないうちに、鈴木由典はソファから立ち上がり、スーツの一番下のボタンを留めた。
「荷物をまとめて、一緒に帰ろう」
今日は特別に早めに仕事を切り上げて鈴木之恵を迎えに来たのだ。もう少し遅かったら、きっとあの藤田のやつめがまとわりついていただろう。今のうちに帰らなければ。
彼は藤田深志のあの気に入らない顔を見たくなかった。
鈴木之恵がパソコンの電源を切り、机の上の物を片付けていると、鈴木由典は既に彼女のコートとバッグを持ってきていた。彼は何も言わなかったが、その姿勢には急かすような雰囲気があった。
鈴木之恵は急いで全てを片付け、彼の後ろについて出て行った。
「来月のお祖母様の誕生日のことだが、叔母さんの手伝いをしてくれないか。家には女性は君たち二人だけだから、こういうことは君たちに任せた方がいい。細かい配慮ができるからね。何か困ったことがあったら兄さんに言ってくれ」