第507章 恩を知らず

藤田深志の表情はとても複雑だった。

LINEを送っても返信がないので、上階に人を探しに行った。

まさか、ここで実の母に会うとは思わなかったし、鈴木之恵のあんな冷たい言葉も聞くことになるとは。

少し胸が痛んだ。

「母さん、どうして戻ってきたの？」

陶山蓮華は今回帰国したことを彼に告げていなかった。彼は2年ほど静かに過ごせると思っていた。柏木正が申し込んだシニアツアーで世界一周する予定で、2年以上かかるはずだった。

藤田深志のこめかみが止めどなく脈打ち、頭が痛かった。

陶山蓮華は自分の息子に対してそんなに遠慮する必要はないと思い、

「帰ってこないわけにはいかないでしょう？帰ってこなければ、あなたの叔父が刑務所に入れられても、あなたは目もくれないんだから。」

藤田深志はここでこんな話をするのは少し恥ずかしいと感じ、

「とりあえず外に出ましょう。人の仕事の邪魔をしてはいけない。」

三人一緒にエレベーターに乗り、中で陶山蓮華がまた言った。

「深志、之恵、二人で日取りを決めて、早く式を挙げなさい。家族がこうして別々に暮らすなんておかしいわ。京都府の奥様たちがどんな陰口を叩くか分からないわ。」

藤田深志は心中穏やかではなかった。早く彼女を娶りたいと思わないわけではない。母が時々やってきては混乱を招き、叔父も手のかかる人間だ。鈴木之恵は以前から彼のプロポーズを承諾していないし、たとえ成功したとしても、このような姑では彼女は逃げ出すだろう。

母親として、息子の幸せを心配するのではなく、まず考えるのは奥様たちの噂話で、自分の体面に影響が出ることだった。

「母さん、前に言ったでしょう。之恵の会社に来ないでって。こんなことじゃ、彼女は仕事ができないよ。」

陶山蓮華はため息をつき、

「あなたにお願いしても動いてくれないから、之恵に頼みに来たのよ。女性は女性の苦労が分かるものよ。息子を産んでも役に立たない、それなら嫁に味方になってもらった方がいい。之恵は今後私の実の娘同然よ。」

鈴木之恵は藤田深志の反対側を歩きながら、これらの言葉を聞いて笑うしかなかった。

「陶山叔母さん、そんなことを言わないでください。私は息子さんと再婚するつもりはありません。あなたの苦労も理解できません。私には一人の母しかいません。そして、もうこの世にはいないのです。」