第513章 フランス

夜は更けていた。

鈴木之恵と藤田深志はベッドの上で寄り添っていた。二人が出会ってから今まで、こんなに激しく愛し合ったことはなかった。

鈴木之恵はバカではない。彼女は彼のフランス行きが危険に満ちていることを理解していた。それは彼女の想像以上に危険なものだった。

彼女は心配していたが、彼は何も言わなかった。

鈴木之恵は腕で彼をきつく抱きしめ、

「行かないでくれない?」

藤田深志は片手で彼女の髪を指の間で弄びながら、

「僕が行かなければ誰が行くんだい?君は家で待っていてくれ。バリーを連れて帰るから。それに君の兄も数日後に飛んでくると言っている。何も起こらないよ、安心して。」

鈴木之恵が安心できるはずがなかったが、彼女には止める術がなかった。

翌日、藤田深志は手元の仕事をすべて段取りし、すべてを柏木正に任せ、必要なら藤田晋司に署名をもらうよう指示した。

航空券は翌日に予約され、朝早く、藤田深志は定刻通りに出発した。

鈴木由典は会社の山積みの仕事を置いて空港まで見送りに来た。藤田深志が搭乗した後、彼は鈴木之恵を乗せて会社に戻った。

鈴木之恵は道中無言だった。鈴木由典はバックミラー越しに彼女をそっと観察していた。

「之恵、あまり心配しなくていいよ。向こうで手配はしてある。到着したら迎えの者がいる。三日後、私も飛んでいく。バリーを連れ戻すタイミングを見計らって。それに祖母の誕生日パーティーにも一緒に参加しなければならないからね。」

鈴木之恵は鼻をすすり、

「お兄ちゃん、一週間後がおばあちゃんの誕生日パーティーよ。その時までに彼女を連れ戻せる?」

鈴木由典は落ち着いた声で、安心感を与えるように言った。

「大丈夫だよ、心配しないで。」

鈴木之恵の心は宙ぶらりんだった。一人は彼女の子供の父親、もう一人は彼女の兄。どちらも心配でならなかった。

しかし、藤田深志と鈴木由典が一緒にこの任務に当たることで、成功の確率はかなり上がった。