鈴木之恵はドアを押し開けて入ってきた。
「姉さん、少し休んだ方がいいんじゃない?」
バリーは顔を上げて鈴木之恵を見た。両目は真っ赤に腫れていた。
「之恵、少し冷静になりたいの。彼はまだ外にいるの?」
鈴木之恵はうなずいた。
「彼はあなたを見守りたいんだよ。入れてもらえなくても、外で待っていれば少しは安心できるんだ。離れるよりはいいと思って」
バリーは黙り込んだ。
「之恵、時間があったらウィッグを買ってきてくれない?」
バリーは自分の髪をとても大切にしていたが、抜け毛は仕方のないことで、時間が経つにつれてその現実を受け入れるようになっていた。
今、藤田晋司を見て、彼女の容姿に対する不安は頂点に達していた。自分のこんなみすぼらしい姿を彼に見せたくなかった。たとえ心の中では彼との関係を続けたくないと思っていても。
鈴木之恵は口元を緩めた。
「いいよ。どんな髪型がいい?すぐに出かけて買ってくるよ」
「あまり長くないのがいいわ。今の私の状態では、長い髪は不便だし。あなたの髪型みたいなのがいいわ、すっきりして機能的で」
「じゃあ、ボブスタイルのを買ってくるね。少し眠って、あまり考えすぎないで」
鈴木之恵は姉を落ち着かせ、ドアを閉めて出てきた。その時、二人の看護師がドアの外で待機していた。
藤田晋司は長椅子に座り、期待の眼差しで鈴木之恵を見つめた。彼はバリーが家族との絆を夢見ていたことを知っていた。今、家族を見つけたのだから、きっと心の中では喜んでいるはずだし、実の妹である彼女のことも好きになるだろう。
彼は鈴木之恵が少し助けになって、バリーの心の結び目をほどいてくれることを願っていた。
鈴木之恵は近づいてきた。
「おじさん、姉さんは冷静になる時間が必要なの。焦らないで、彼女がゆっくり受け入れられるようにして。この数年の空白を少しずつ埋めていけばいいんだから」
藤田晋司は視線を戻し、無言でため息をついた。
「大丈夫だ。ここで見守っているよ。彼女が私に会いたくないなら、姿を見せない。彼女を見ることができるだけでいい。彼女がこの世で元気に生きているのを見られれば、私には受け入れられないことなんてない」
「じゃあ、一度帰って、夜にまた来るというのはどう?」
藤田晋司は首を振った。