第541章 一体何の薬

藤田深志は昨日のことを思い出していた。あの状況では、彼は彼女に真実を伝えていなかったようだ。

「之恵、何時?」

「十時過ぎよ。弘美と弘文はもう学校に行ったわ。起きなさい、これから病院に行くわよ。」

藤田深志は布団から勢いよく起き上がった。

「こんな時間まで寝てたのか?」

予想通り、鈴木之恵は一晩中彼を見守っていたのだ。彼には決まった体内時計があり、これまでこんな時間まで寝たことはなかった。

鈴木之恵は彼の様子を注意深く観察していた。昨夜は魂が抜けるほど怖かった。彼の一挙一動を細かく見ていて、また何か異常な行動が出るのではないかと恐れていた。

「お腹すいた?」

藤田深志はこの時間、確かに胃が空っぽだった。鈴木之恵はまず彼に水を一杯渡した。

「飲んだら一緒に下に行きましょう。朝食を食べたら出かけるわ。」

藤田深志は少し戸惑った。彼女は今、彼から一歩も離れないつもりのようだった。

「之恵、俺は大丈夫だ。病院に行く必要はない。食事の後、仕事に行こう。」

鈴木之恵は胸が詰まる思いだったが、必死に感情を抑えた。彼女は自分の感情が彼に影響し、病状を悪化させることを恐れていた。彼女は唇を曲げて優しく諭すように言った。

「休みを取ってあるわ。まずは数日休んで。健康が一番大事よ。」

藤田深志は眉を上げた。

「之恵、今日は重要な契約があるんだ。」

「柏木正さんと叔父さんに電話したから、問題ないわ。」

藤田深志は黙った。

「わかった、じゃあ...病院には行かなくていい。今は感じるに、俺は...」

「深志、私の言うことを聞いてくれない?病院に行って診てもらいましょう。あなたに問題がないことはわかってるわ。ただの定期健診だと思って。無理な検査はさせないから。」

彼女は優しく言い聞かせ、一言一言が彼の感情に配慮したものだった。

彼女はやはり、彼が心の病を発症したと確信していた。

藤田深志は目を上げて彼女を見た。彼女の目に宿る確信は拒否できないものだった。彼は自分が何を言っても、彼女は医者に連れて行くと決めていることを知っていた。

それなら彼女の言う通りにしよう。

「わかった、君の言う通りにする。」