「だって……」結城暁は無理な理由を探して言った。「美味しくないから」
「美味しくないの?私も味見してみよう」
南雲泉がスプーンですくおうとした瞬間、結城暁が身を乗り出し、彼女のスプーンを口に含んで、つばめの巣をすべて食べてしまった。
「わざとでしょう」南雲泉は口を尖らせて、怒って彼を見つめた。
さらに予想外だったのは、次の瞬間、結城暁が直接椀を手に取り、一気にすべてのつばめの巣を飲み干してしまったことだ。
南雲泉は空っぽのガラス椀を見つめ、目を何度もパチパチさせながら「お腹すいてたの?」と聞いた。
「いや」
「じゃあ、なんで私の食べ物を奪うの?」南雲泉は不思議そうに彼を見つめた。
しかも、確か彼はつばめの巣が好きじゃなかったはず。以前、彼女が家でつばめの巣を食べていた時、嫌そうな顔をしていたのに。
今日はどうしたんだろう。一気にすべてのつばめの巣を飲み干してしまって。
彼女に少しも残さなかった。
コンコンコン、ドアをノックする音が聞こえた。
南雲泉がドアを開けると、瀬戸恵がにこにこしながら「若奥様、旦那様と飲み終わりましたか?お椀を下げに参りました」と尋ねた。
「ああ、飲み終わりましたよ。瀬戸さん、ちょっと待ってください」
南雲泉は急いで二つの椀を瀬戸恵に渡した。
きれいに飲み干された二つの椀を見て、瀬戸恵の顔にさらに笑みが浮かび、「良かった、良かった、本当に良かった!」と何度も言った。
瀬戸恵が階下に降りると、雲居詩織が待ちきれない様子で「どうだった?全部飲んだ?」と尋ねた。
「はい、奥様。旦那様も若奥様も全部召し上がりました」瀬戸恵は嬉しそうに答えた。
雲居詩織も珍しく笑みを浮かべた。「これで南雲泉のお腹に動きがないはずがないわ」
「奥様のご配慮、きっと旦那様もお分かりになると思います。ご安心ください。若奥様はきっとお子様を授かられますよ」
寝室で、南雲泉はドアを閉めながらまだ不思議そうだった。
つばめの巣を飲むだけなのに。
なぜ瀬戸恵はあんなに喜んでいたのだろう。
瀬戸恵も暁も今夜はなんだか変だと感じた。
「正直に言って。私に隠れて何かしたでしょう?」南雲泉は真剣な表情で結城暁を見つめた。
結城暁はもちろん認めるわけにはいかず、両手を広げて「何もないよ。君に隠れて何ができるというんだ」