「辛いです」結城暁は言った。
そして、彼は目を開けた。情欲に染まった赤い瞳が南雲泉に向けられ、声は低く掠れていた。「でも、お前がここにいると、もっと辛くなる」
「泉、俺は聖人君子じゃない。もしお前がここにいつづけるなら、自分を抑えられるとは保証できない」
南雲泉は仕方なく部屋を出た。
彼女は布団をめくって横たわった。
しかし、少しも眠気は感じなかった。
彼女の注意は全て結城暁に向けられ、中からの一つ一つの物音に耳を澄ませていた。
三十分で、中の水はもう三回も替えられていた。
きっと彼は熱くて、辛くて、だから冷水に浸かり続けているのだろう。
先ほどの、真っ赤な目をして全身が熱く燃えるような様子を思い出し、南雲泉は思わず目が潤んだ。
彼があんなに苦しんでいると思うと、彼女も辛くなった。
浴室で四回目の水を替えるとき、結城暁はついに我慢できずに桐山翔に電話をかけた。「今すぐ、解毒薬を持ってこい」
「結城社長、どんな解毒薬ですか?」
「母が俺と泉を同衾させようとしている。どんな薬か分かるだろう?」
結城暁が怒鳴ると、桐山翔は驚いて口を開けた。「奥様はやりますね!本当に全力を尽くしているんですね」
「薬を持ってすぐに来い。忠告しておくが、十分な準備をして薬を隠せ。さもないと入ってきたとき泣くことになるぞ」
「泣くはずがありません。結城社長、私を甘く見すぎです」
電話を切ると、結城暁はため息をついた。
今は桐山翔が早く薬を持ってきてくれることを願うばかりだ。
しかし時間が経つほど、薬の効果は強くなり、彼はますます苦しくなっていった。
彼の苦しそうな呻き声を聞いて、南雲泉はもう我慢できなかった。彼女はベッドから降り、靴も履かずに直接浴室のドアを開けて入った。
彼が真っ赤な瞳で必死に耐えている姿、額から滴る汗を見て、南雲泉は突然何も考えられなくなり、直接浴槽の水を抜いた。
そして新しい温かい湯を入れた。
「泉、何をしている?」
「私は...」
南雲泉は言葉が出なかったが、直接浴槽に入り、身を屈めて結城暁を抱きしめた。柔らかい声が彼の耳元に吹きかけられた。「あなたが辛いのは分かります。こんなに苦しんでいるのを見たくないんです」