第44章 お爺さまが逝った

「はい」

結城暁は頷いた。「お爺様、約束します」

「よかった」お爺様は嬉しそうに微笑んだ。「これで安心できる」

「あの子を呼んでおくれ」

南雲泉は最後に入室した。

入り口で、彼女は必死に涙を拭っていた。

お爺様は彼女の笑顔が見たいのだと、泣いて欲しくないのだと、彼女にはわかっていた。

だから我慢しなければ。泣いてはいけない、絶対に泣いてはいけない。

やっと感情を落ち着かせ、南雲泉は精一杯笑顔を作って、お爺様の側に行き、その手を握った。

「お爺様、泉です」

南雲泉は必死に耐えていた。笑顔でいなければと自分に言い聞かせ続けていた。

お爺様に最高の姿を見せて、お爺様を喜ばせ、心配させてはいけない。

しかし、口を開くと、涙は止めどなく溢れ出した。

「泉や、泣くな。生老病死は人の世の摂理じゃ。誰もがいつかは通る道、お爺様が一足先に行くだけのこと。お前のことが一番心配でな」

南雲泉はその手を握りしめ、必死に首を振った。「いやです、お爺様。行かないでください。ずっと私と一緒にいてください」

「約束したじゃないですか。私をどこかに連れて行ってくれるって。泉はまだ約束を果たしていないのに。どうして私一人を置いて行くんですか?」

南雲泉は息も絶え絶えに泣いていた。受け入れることができなかった。

まるで目の前のすべてが夢のようだった。

一度眠って目覚めれば、この夢は終わるのではないかと。

「泉や、お前が暁との結婚のことを気にしているのは分かっている。彼が自発的ではなかったと思って、失望しているんだろう。だが、過程は時として重要ではない。結果が良ければそれでいいのだ」

「お前は、お爺様がお前を暁に嫁がせたのは、恩返しのためだと思っているのか?」

南雲泉は頷いた。「はい」

確かに、ずっとそう思っていた。

お爺様は首を振った。「当時、お前の母さんがお爺様を救ってくれた。みんな恩返しのため、自分の心を安らかにするために、お前を暁と結婚させたと思っている。もし単なる恩返しなら、お爺様には千の方法があった。お金を与えることも、高級車も、豪邸も、株式も...多くの方法があった。だが、なぜお爺様がこの道を選んだと思う?」

南雲泉は首を振り、黙って聞いていた。