「何?」
南雲泉は呆然としていた。自分の耳を疑った。
しかし、反応する間もなく、瀬戸奏太に車の中へ押し込まれた。
車に乗り込んでも、南雲泉はまだ呆然としていた。
その時、前の席から元気いっぱいの青年が笑いながら口を開いた。「隊長、どういうことですか?女性を近づけないはずの隊長が...まさかこの方が奥様?」
「余計なことを。」男は低く吠えた。
前の青年は即座に大人しく口を閉ざした。
しばらくの間、南雲泉は呆然としたままだった。
数分後、やっと我に返り、隣の男を見た。「なぜ私を助けてくれたんですか?」
「もし私の推測が正しければ、あなたの携帯は電池切れですよね?」
「はい。」
「助けるなら最後まで。病院まで送るのも道順だし。」
「ああ。」
そういうことか。
前の柏木朋也は深いため息をついた。
期待が外れた。
隊長がついに目覚めて、好きな女性ができたのかと思ったのに。
まさか単なる助けだとは。
「お嬢さん、気にしないでください。うちの隊長は職業病が重くて、誰かが困っているのを見ると、必ず最後まで助けずにはいられないんです。」
「どちらにしても、本当にありがとうございます。」
病院に着くと、南雲泉はスーツケースを持って車を降りた。
彼らの車が遠ざかってから、南雲泉はある問題に気づいた。さっきあの男の名前を聞くのを忘れていた。
聞いておくべきだった。何度も助けてもらったのだから、名前くらい覚えておくのが礼儀だった。
車の中で、柏木朋也は道中我慢していたが、南雲泉が降りると、ついに耐えきれずに口を開いた。
「隊長、さっきの方、本当に綺麗でしたよ。考えてみませんか?」
「おしゃべりだな。」
「ああ、隊長、見てくださいよ。もうすぐ三十なのに、恋愛もしない、結婚もしない。」
男は眉を上げ、冷たい声で言った。「何?仲人でもやり始めたのか。配置転換の申請でも出してやろうか。」
「いや、いや、隊長、悪かったです。」言い終わると、柏木朋也は前で小声でつぶやいた。「問題は、隊長が恋愛しないから、みんなも恋愛できないんですよ。」
「何か言ったか?」瀬戸奏太の耳は鋭かった。
柏木朋也はすぐにニコニコと応じた。「隊長は我々の部隊で一番カッコよくて、一番クールで、一番...とにかく何でも一番です。隊長が一番すごいです。」