第32章 もし私がキスしたらどうなる?

手洗い場に着くなり、南雲泉は激しく吐き始めた。

数時間も街を歩き回って疲れていたところに、こうして吐いてしまい、南雲泉は全身の力が抜けてしまった。

吐き終わって喉が酸っぱく苦くなっているとき、横から誰かがティッシュを差し出してきた。

南雲泉はそれを受け取り、「ありがとう!」と言おうとした。

しかし、顔を上げて藤宮清華の顔を見た瞬間、凍りついた。

「あなた?」

「暁があなたを心配して、顔色が悪そうだから見に行ってくれと言われたの」

「そう?」南雲泉は冷笑した。

もし結城暁が本当に彼女のことを心配しているなら、まだ離婚も成立していないうちから藤宮清華と指輪を買いに来たりはしないはずだ。

指輪が何を意味するか、誰もが分かっている。

「私からのティッシュだから使いたくないの?」藤宮清華は南雲泉を挑発するように尋ねた。