彼女は認めた。緊張していたことを。
とても、とても緊張していた。
そして、期待を抑えきれない自分も認めた。
特に、彼の唇が近づいてきた時、思わずキスしたい衝動に駆られた。
しかし、丸一分。
予想していたキスは、訪れなかった。
カチッという音とともに、結城暁の低くて色気のある声が耳元で響いた。「はい、できた。これからはシートベルトを自分で締める習慣をつけてね」
シートベルトを締めてくれただけだった。
バカね、考えすぎだった。
本当に恥ずかしい。
南雲泉の顔が、一瞬で真っ赤になった。
うつむいて、目を開けることもできなかった。
「本当に恥ずかしい、南雲泉よ南雲泉、何を考えているの!」
うつむいた瞬間、自分を何百回も責めていた。
さらに困ったことに、シートベルトは締め終わったのに、結城暁は離れず、さっきの位置のままで、相変わらず彼女を囲んでいた。