第52章 南雲泉が人質に

病室の光景を見た南雲泉は、怒りで拳を握り締めた。

全身が怒りに震えていた。

柏木邦彦はベッドに寝そべり、足を組んで、片手に酒を持ちながらテレビを見ていた。まるで休暇を楽しんでいるかのようで、病人らしい様子は微塵もなかった。

南雲泉が入ってくるのを見ると、すぐに酒瓶を置き、にこやかに言った。「可愛い娘よ、お父さんをずいぶん待たせたね。やっと来てくれたか。」

「柏木邦彦...」南雲泉は抑えきれずに叫んだ。「人としての良心はないの?病気だったんじゃないの?今の様子を見る限り、すこぶる元気そうじゃない。」

柏木邦彦はすぐさま胸に手を当てた。「あいたた、痛い、胸が痛い。早く、早く医者を呼んでくれ。」

「芝居はやめて。」

「何ともないなら、私は帰るわ。」

そう言って、南雲泉は一刻も留まりたくなく、すぐに外へ向かった。