第53章 溺愛、彼女のために仕返しをする

男は聞いて数秒間呆然としていた。

そして、大声で笑い出した。「柏木邦彦、お前が?結城の社長がお前の娘婿だって?ハハハ、よく言えるな」

「アメリカ大統領がお前の娘婿だとでも言うのか?」男は柏木邦彦の頭を平手打ちした。

柏木邦彦は焦って、急いで南雲泉の方を見た。「泉、早く説明してくれ。彼らがお前をどこに連れて行こうとしているか知っているのか?」

「どこに?」

「奴らはお前をキャバクラに売り飛ばして、男の相手をさせようとしているんだ」柏木邦彦は歯を食いしばって言った。

南雲泉は急に顔を上げ、信じられない様子で男を見つめた。「それは違法です。私の自由を売り買いする権利はないし、強制もできません」

男は彼女を一瞥し、嘲笑を浮かべた。

その時、柏木邦彦は男の腕を掴み、同時に携帯を取り出して結城暁に電話をかけた。

「もしもし...」

柏木邦彦だと分かると、結城暁の声は冷たくなった。

「いい娘婿よ、私はあなたの義父ですよ」柏木邦彦は丁寧に答えた。

「何の用だ?」

結城暁が否定しないのを見て、男は南雲泉から手を離し、興味深そうに聞き入った。

心の中でさらに疑問が湧いた:まさか結城の社長は本当に柏木邦彦の娘婿なのか?

「暁、その...私は借金があって、返せと言われて、返さないと手を切られると...」

柏木邦彦の言葉は結城暁に遮られた:「それは私には関係ない」

電話を切ろうとした時、柏木邦彦はすぐに叫んだ。「奴らは泉を捕まえて、私たちに金を返せと脅しているんだ」

「どこにいる?」結城暁は即座に椅子から立ち上がった。

「住所を教えろ」

住所を聞くと、結城暁はジャケットを手に取って出て行った。

車の中で、結城暁の表情は人を凍らせそうなほど冷たく、唇を引き締め、一言も発せず、周りの空気は凍りつくような威圧感に満ちていた。端正な顔立ちは今や陰鬱という言葉でしか表現できなかった。

どいつらがそんなに大胆なのか、結城暁の妻を人質に取って脅そうとするとは。

まったく死に急いでいるとしか思えない。

20分後。

南雲泉が結城暁を見た時、幻覚を見ているのかと思った。

「泉」

「暁」

二人は同時に声を上げた。

南雲泉は嬉しそうに結城暁の方へ駆け出した。

しかし二歩も進まないうちに、またあの連中に遮られた。

「どけ」