第55章 彼は彼女を騙した

結城暁は一目見ただけで携帯の電源を切り、メッセージには一切返信しなかった。

南雲泉は探るように尋ねた。「何かあったの?携帯が鳴りっぱなしだったけど」

「何でもない」

「そう」

彼が言わないなら、彼女も特に聞くことはなかった。

南雲泉が髪を乾かした後、結城暁は部屋の明かりを消し、二人は同時にベッドに横たわった。

部屋の中は静かだった。

しばらくの間、南雲泉は二人の呼吸がはっきりと聞こえるように感じた。

布団をしっかりとかけ、南雲泉は目を閉じ、もう何も言わなかった。

しかし、結城暁の携帯が絶えず振動し、画面も点灯し続けているのを感じることができた。

彼は横を向いて、携帯を見た。

そして、彼の周りの空気が重くなった。

どれくらい経ったか覚えていないが、彼女は微かな音を聞いた。

南雲泉は少し目を開け、結城暁がすでにベッドから起き上がり、服を着替えているのを見た。

やはり彼は承諾したのだ。

この時間に起きるということは、藤宮清華に会いに行くことを決めたということだろう。

南雲泉の体は布団の中で硬くなった。彼女は今この瞬間、まるで彫像のように、木のように布団の中に横たわり、少しも動くことができなかった。

まるで彼に気づかれることを恐れているかのように。

目も合わせるように閉じていなければならなかった。

おそらく数分後、結城暁の服装は整ったようだった。

次の瞬間、南雲泉の耳元でドアが閉まる音が聞こえた。

彼が出て行ったことを、彼女は知っていた。

結局、彼は行ってしまった。

しかも何も彼女に告げずに、彼女が寝ている間に隠れて行ったのだ。

きっと彼は彼女が寝ていて、何も知らないと思っているのだろう。

笑えることに、彼女は全て知っていた。

「結城暁」南雲泉は布団を握りしめ、苦しそうに彼の名前を呼んだ。

突然、外からゴロゴロという雷鳴が聞こえ、雨が降りそうだった。

南雲泉は自分を抱きしめてベッドに座っていた。部屋は真っ暗で、何も見えなかったので、雷鳴がより一層はっきりと聞こえた。

結城暁が病院に着いた時には、雨はすでに降っていた。

病室はがらんとしていて、藤宮清華の姿はどこにもなかった。

医師に尋ね、看護師に尋ね、最後に得た答えは、藤宮清華は外にいるということだった。