「赤ちゃん、いい子にしていてね」
「赤ちゃん、安心して。ママは強いから、何も起こさせないわ」
南雲泉は両手で、ずっとお腹を守り続けていた。
その間、彼女は結城暁に電話をするべきか迷い続けていた。
かけるべき?
彼女は何度も自問自答した。
一瞬、実際に彼の電話番号を見つけて発信していた。
しかし相手が出そうになった時、すぐに切ってしまった。
病院に着くと、南雲泉はすぐに受付を済ませた。平日だったため、幸い混んでいなかった。
順番を待っている間、彼女はもう耐えられないほど具合が悪くなっていた。頭がぼんやりして、めまいがし、今にも気を失いそうな錯覚さえ感じていた。
待合室は人が多く、空気が淀んでいた。
南雲泉は立ち上がり、外に出ようとした。
ロビーに出たその時、救急患者が運ばれてきた。
医師と看護師が患者を運びながら、大声で叫んでいた。「どいてください!早くどいてください!」
南雲泉は緊急事態だと分かっていた。この時の救急処置の一分一秒が非常に貴重だと知っていたので、救急患者が彼女の方向に運ばれてくるのを見て、考える間もなく、すぐに道を開けた。
おそらく急ぎすぎたせいで、南雲泉は道を開ける時に足を捻ってしまい、急に横に倒れそうになった。
幸い近くに大きな柱があり、それを必死でつかんだおかげで転倒は免れた。
傍らでは、医師と看護師が患者を猛スピードで救急室へと運び、後ろには制服を着た警察官たちが電光石火のように続いていた。
南雲泉がこんな光景はテレビでしか見たことがないと思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
次の瞬間、彼女は意識を失っていた。
「隊長、誰か倒れました」
「さっき私たちに道を譲ってくれた人みたいです」柏木朋也が言った。
瀬戸奏太は隊列から離れ、風のように南雲泉の元へ駆け寄り、彼女を抱き上げて救急室へと直行した。
救急室の外で、柏木朋也は長い間考えていたが、突然何かを思い出したように頭を叩いた。「隊長、思い出しました。どうしてこの美人が見覚えがあると思ったんです。この前私たちの車に乗った美人じゃないですか?」
「隊長、あなたと彼女は本当に縁があるんですね」
柏木朋也は興奮して言い終わったが、瀬戸奏太の表情は厳しく、何の変化も見せなかった。