「はい、結城社長と藤宮さんは中にいらっしゃいます」と桐山翔が答えた。
南雲泉はドアを開けて中に入った。
部屋は広く、彼女が入っても誰も気付かないほどだった。
数分後、南雲泉はようやく奥まで歩いていった。
目に入ったのは、結城暁と藤宮清華が抱き合う姿で、まるで生死を共にする恋人同士のようだった。
想像はしていたものの、二人が抱き合う様子を想像することと、実際に目にすることは全く別物だった。
部屋の中は静かだった。
南雲泉はそこに立ち尽くし、二人が抱き合う姿を見つめていた。
彼女は、二人がいつ自分に気付くのか見てみたかった。
彼女が知らなかったのは、藤宮清華は既に気付いていたが、気付かないふりをしていただけだということだった。
そして結城暁は、何度か藤宮清華を押しのけようとしたが、引き止められていた。
そのため、この抱擁は数分間も続いた。
最後に、結城暁は断固として藤宮清華を押しのけた。
押しのけた瞬間、彼の目は南雲泉を捉えた。
瞬時に、彼の目は驚きと動揺で満ちた。「泉、どうしてここに?」
「来てはいけないの?」
結城暁の動揺に比べ、南雲泉は異常なほど冷静だった。
「いや、そういう意味じゃない」
結城暁は前に進み出て彼女の手を取った。「傷の具合はどう?医者は何て言ってた?」
「大したことないわ」
そう言って、彼女は藤宮清華の方を見た。「彼女は?状態はどう?」
「出血が多かったけど、幸い早めに運び込めた。輸血も済ませて、傷も深くなかったから、しばらく休養すれば回復するはずだ」と結城暁は言った。
「そう、よかった」
藤宮清華のことは好きではなかったが、死んでほしいとまでは思わなかった。そこまで悪意は持っていなかった。
それに、人はいなくなってしまうと、月光のように美化され、永遠の存在となってしまうことがある。
明らかに、藤宮清華が結城暁の人生でそのような存在になることは望んでいなかった。
それは彼らの間に永遠に越えられない川を作ることになるだけだから。
「もう遅いから、私は寝に帰るわ。あなたは帰る?」と南雲泉は尋ねた。
結城暁が口を開こうとした瞬間。
突然、藤宮清華がベッドから飛び降り、結城暁の胸に飛び込んだ。
彼女は結城暁にしがみつき、まるで怯えた小鳥のように哀れに言った。「暁、行かないで。私と一緒にいて」