第83章 実は、彼は南雲泉の甘えを見たかった

「はい、結城社長と藤宮さんは中にいらっしゃいます」と桐山翔が答えた。

南雲泉はドアを開けて中に入った。

部屋は広く、彼女が入っても誰も気付かないほどだった。

数分後、南雲泉はようやく奥まで歩いていった。

目に入ったのは、結城暁と藤宮清華が抱き合う姿で、まるで生死を共にする恋人同士のようだった。

想像はしていたものの、二人が抱き合う様子を想像することと、実際に目にすることは全く別物だった。

部屋の中は静かだった。

南雲泉はそこに立ち尽くし、二人が抱き合う姿を見つめていた。

彼女は、二人がいつ自分に気付くのか見てみたかった。

彼女が知らなかったのは、藤宮清華は既に気付いていたが、気付かないふりをしていただけだということだった。

そして結城暁は、何度か藤宮清華を押しのけようとしたが、引き止められていた。