久我時也の言葉に、結城暁は突然立ち尽くした。
タバコを挟んでいた手が宙に止まった。
その瞬間、まるで目が覚めたような感覚に襲われた。以前は、このような方向から考えたことはなかったが、久我時也に指摘されて、重要な問題を見落としていたことに気づいた。
南雲泉と仲直りしてから、彼の心は固く決まっていた。
もう清華とは一緒になれない。
特に今は、たとえ南雲泉と別れたとしても、清華と一緒になることは選ばないだろう。
でも、なぜだろう?
久我時也の言う通りだ。以前は彼女を愛していたのに、もし本当に離婚したら、二人が復縁するのが最善の結果のはずだ。
なのに、なぜこんなにも拒絶しているのだろう?
「考えたことがなかった」結城暁は正直に答えた。
確かに理由を考えたことはなかった。
久我時也は手の煙草を消して、淡々と言った。「答えは簡単だ。もう彼女を愛していない。他の人を愛しているんだ」
そう言いながら、彼の視線は結城暁と南雲泉の寝室に向けられた。
先ほど南雲泉の診察をした時、実は結城暁の焦りが全てを物語っていた。
しかし、恋とはそういうものだろう。当事者は気づかず、傍観者には見えるものだ。
「私の推測が間違っていなければ、今あなたが愛しているのは自分の妻であって、藤宮清華ではない」言い終わると、久我時也は結城暁の肩を叩いた。「大切にしろよ。失ってしまえば、二度と戻ってこないものもある」
「かつての私のようにならないでくれ」
「ありがとう」結城暁は心から感謝した。
久我時也が帰った後、結城暁はシャワーを浴びて南雲泉の隣で眠った。
この夜、彼はほとんど眠れなかった。頭の中では久我時也の「今あなたが愛しているのは自分の妻だ」という言葉が繰り返し響いていた。
彼が愛しているのは南雲泉?
南雲泉を愛してしまったのか?
この言葉が、彼の頭の中で狂ったように回り続けた。
長い間考えていたが、突然、ある瞬間に全てが明らかになった。久我時也の言う通りだった。彼はおそらく早くから南雲泉を愛していた。ただ、自分自身が気づいていなかっただけだ。
彼女が泣くたびに、心が痛み、辛くなり、手放したくなかった。
彼女が自分の人生から去ることを考えただけで、イライラしてしまう。