「結構です」南雲泉は断った。
ため息をつくように、結城暁は言った。「たった一晩だけだよ。私が何かするとでも思うのか?」
南雲泉は唇を噛んで、何も言わなかった。
何かが起こるのを恐れているわけではない。ただ、長く一緒にいればいるほど、別れがつらくなると思っただけだ。
「君はここに残って、私は会社で寝る。明日の朝、送っていくから」
彼がそこまで言うなら、南雲泉はただ頷くしかなかった。「わかりました」
翌朝早く、南雲泉は目を覚ました。時計を見ると、まだ6時過ぎだった。彼女は麺を茹でて、簡単な朝食を済ませた。
全ての荷物を片付け終わっても、まだ8時にもなっていなかった。
スーツケースを玄関まで運んだとき、彼女は我慢できずに2階に上がった。
2階から下を見下ろしながら、彼女は感慨深い気持ちになった。初めてこの部屋に入った時のことを思い出した。どれほど期待に胸を膨らませ、心躍らせていたことか。