二人が民政局の正面玄関を出たとき、突然、左側からバイクが猛スピードで走ってきた。
「南雲さん、危ない!」結城暁は心臓が飛び出しそうになりながら、大声で叫んだ。
同時に走り寄り、考える間もなく、南雲泉を抱き寄せた。片手で彼女の腰を抱き、もう片方の手で頭を守った。
「きゃあ!」南雲泉も驚いて大きな悲鳴を上げた。
突然、バンという音とともに、目の前のバイクが激しく地面に倒れ、乗っていた男性も転がって重く地面に落ち、痛みで呻いていた。
その瞬間、周りは万物が静まり返ったかのようだった。
南雲泉は結城暁の胸に身を寄せ、彼の心臓の鼓動だけが聞こえるようで、ドキドキと...止まることなく激しく打っていた。
「どこか怪我してない?」やっとその時、結城暁は息を整え、抱きしめている人を優しく見つめながら尋ねた。
「大丈夫です。怪我はありません。あなたは?」南雲泉が聞いた。
言葉が終わるか終わらないかのうちに、結城暁は彼女を放し、地面に倒れている男性に向かって突進した。
彼は前に出て、男性を引っ張り上げ、歯を食いしばるような声で言った。「なんでそんなスピードで走るんだ?あぁ?命知らずか?」
「俺の妻にぶつかりそうになったことがわかってるのか?」
彼は大声で怒鳴り、両手を拳に握り締め、今にも殴りかかりそうだった。
南雲泉は驚いて、急いで駆け寄って制止した。「結城さん、落ち着いて!」
「スピード違反で、完全に命知らずだ。今日は絶対に懲らしめてやる。しっかり教訓を覚えさせてやる」
さっき南雲泉が轢かれそうになったことを思い出すだけで、彼の心は怒りで収まりがつかなかった。
もし彼女の側にいなかったら、もし彼女を助けられなかったら?
その結果は想像するだけでも恐ろしかった。
南雲泉は彼に過ちを犯させたくなかった。特に自分のために過ちを犯させたくなかった。彼女は手を伸ばし、急いで結城暁の腕を掴み、優しい口調で諭した。「警察に任せましょう。あなたが直接手を出す必要はありません」
もし彼が先に手を出して人を殴ってしまえば、万が一この件が公になった時、たとえ正当な理由があっても、正当性を失ってしまう。
彼はこれほど大きな会社を運営していて、一挙手一投足が注目の的になっている。こんな些細なことで彼に影響が出るのは、あまりにもったいない。