第142章 バカね、10年間の人はあなただったのよ1

南雲泉は慌てて手を伸ばし、素早く顔の涙を拭った。「何でもないわ。ただ昔のことを思い出して、少し切なくなっただけ」

「大丈夫よ、もう平気」彼女はそう言いながら、必死に笑顔を作って自分を取り繕った。

「本当?嘘じゃない?何を思い出してそんなに悲しくなったの?聞かせてくれない?」結城暁は半信半疑だった。

「昔の話よ。もう言わないわ。そうそう、夕食に行くって言ってたでしょう?お昼はちょっとしか食べてないから、今はお腹が空いてるの」

「わかった。どこで食べたい?」結城暁は尋ねた。

「第一中学校の前の通り」南雲泉は考えることもなく、即座に答えた。

この場所は、彼女が早くから決めていた。

もし、いつか彼と一緒にここに戻ってこられたら、きっと良い思い出を持って帰りたいと思っていた。でも今は、一つ一つが悲しみと辛さに満ちている。