第142章 バカね、10年間の人はあなただったのよ1

南雲泉は慌てて手を伸ばし、素早く顔の涙を拭った。「何でもないわ。ただ昔のことを思い出して、少し切なくなっただけ」

「大丈夫よ、もう平気」彼女はそう言いながら、必死に笑顔を作って自分を取り繕った。

「本当?嘘じゃない?何を思い出してそんなに悲しくなったの?聞かせてくれない?」結城暁は半信半疑だった。

「昔の話よ。もう言わないわ。そうそう、夕食に行くって言ってたでしょう?お昼はちょっとしか食べてないから、今はお腹が空いてるの」

「わかった。どこで食べたい?」結城暁は尋ねた。

「第一中学校の前の通り」南雲泉は考えることもなく、即座に答えた。

この場所は、彼女が早くから決めていた。

もし、いつか彼と一緒にここに戻ってこられたら、きっと良い思い出を持って帰りたいと思っていた。でも今は、一つ一つが悲しみと辛さに満ちている。

まあ、これでいい。

始まりの場所で、終わりを迎えよう。

少なくとも、良い別れができる。あまりにも惨めな別れにはならない。

結城暁は特に意外そうで、興味深そうに尋ねた。「君は第一中学校に特別な思い入れがあるの?」

「そう?」南雲泉は微笑んで、説明はしなかった。

夏の夜は、暗くなるのが遅い。二人が第一中学校に着いた時、まだ空は明るく、ちょうど夕日が沈むところだった。

空には大きな焼け雲が広がり、オレンジ色や朱色、深紅など、様々な赤色が空一面に広がり、美しい水墨画のような景色を作り出していた。本当に美しかった。

空の端には、夕焼けが満ちていた。

南雲泉は顔を上げ、嬉しそうに眺めていた。夕日の残光が彼女の瓜実顔に落ち、より一層柔らかく美しく見えた。

「きれいね!」

そよ風が、優しく吹いていた。

すべてが美しかったが、彼女の心は鉛を詰め込んだように重かった。

最後の最後に、すべてがここで始まったのなら、すべてをここで終わらせよう。

「結城暁、卒業してからここに来たことある?」南雲泉は尋ねた。

彼は首を振った。「卒業してからは時間がなくて来てない。君と来た一度以外は」

「え?君はずっと来てたの?」

南雲泉は頷いた。「うん、来てたわ。毎年来てる。多い時は年に3、4回、少なくても最低1回は」

「どうして?」