第170章 彼女だけがまだ愚かに想い続けている

「実は違うの。この前、病院のカフェでコーヒーを飲んでいたら、偶然勇家院長とお母様に会ったの。お母様が彼に彼女を見つけるように急かしているみたいだった」

南雲泉は平然と言った。

東雲絵麻は違った。彼女はそれを聞くなり、すぐに興奮した。

「まあ、泉！あなた、すごくラッキーだと思わない？本当に超ラッキーよ！」

「どうして？」

南雲泉は特に何とも感じていないようだった。

「私たちがここに来てまだ数日しか経っていないのに、私たち以外の多くの人は院長先生に一度も会えていないのよ。なのにあなたは一人で既に二回も会っているじゃない。しかも私的な場面で」

「食事の時のことは置いておくとして、あの時間帯に病院で食事をしていた人は皆見かけたわ。でも重要なのは、仕事後にコーヒーを飲んでいる時にも会えるなんて、これはあまりにも...」

東雲絵麻が次に言おうとしていることを予測したかのように。

南雲泉は素早く手を伸ばして彼女の口を塞いだ。「後で言おうとしていた言葉は飲み込んで」

東雲絵麻は一生懸命目を瞬かせた。

南雲泉が手を離すと、彼女はやはり我慢できずに言った。「泉、これが縁じゃないなら、私は何が縁なのかわからないわ」

「あなたたちは普通の縁じゃないわ。本当にすごい縁があるのよ！」

話しながら、東雲絵麻は自分の頬を両手で包み、甘い憧れに満ちた表情を浮かべた。「私もいつか運命の人とこんな縁があればいいのに！」

南雲泉は彼女を軽く引っ張って、「もういいわ、目を覚まして。恋愛なんて、来るべき時が来れば自然に来るものよ」

「それに一度来たら、止めようとしても止められないわ。今の独身生活の幸せを楽しみなさい。恋愛があったからといって、必ずしも幸せになれるわけじゃないわ」

東雲絵麻はそれを聞いて、真剣に見つめた。「泉、あなた、恋愛で傷ついたことがあるの？」

「どうしてそう思うの？」

「だって、あなたの口調が、なんだかとても悲しそうな感じがするから」

南雲泉は眉を下げ、何も言わなかった。

恋愛だけじゃない。

結婚も。

今の彼女には、本当に勇気がなかった。まるで小さな亀のように、分厚い殻の中に隠れ、簡単には外に出ようとしなかった。