南雲泉は柏木邦彦が差し出した両手を見つめ、もう我慢できなくなった。
彼女は振り向いて、ベランダからほうきを取り、考えることもなく、力いっぱい柏木邦彦に向かって振り下ろした。
しかし、柏木邦彦は優しい人間ではなかった。
彼はその状況を見るや否や、南雲泉の手からほうきを奪い取り、即座に踏み折って、数本に折ってしまった。
「狂人、あなたは狂人よ」
南雲泉は急いで携帯電話を探しに行った。警察に通報しなければならない。
この状況では、警察に通報するしかない。
元々、柏木邦彦がどんなに悪質でも、ここまでひどい行為はしないだろうと思っていた。母が臨終の際に教えてくれたことを覚えていて、彼に対して少しは優しくしようと思っていた。
結局、母と娘が頼る人もなく、行き場を失った時に、彼は命を救ってくれたのだから。