第58章 彼は自分が彼女の夫だと最初から知っていたのか

彼女は誰?

もう自分でもわからなくなっていた。ただ体が徐々に重くなり、まるで暗い深淵に落ちていくような感覚だった。

しばらくすると、体がどんどん熱くなり、シャツは汗で濡れてしまった。

藤原月はゆっくりと彼女の上に覆いかぶさり、下から手を回して抱きしめた。

高橋真子は朦朧とした意識の中で彼を呼んだ。「藤原月!」

「もう呼ばないで。さもないと、夫しかできないようなことをしてしまいそうだ!」

藤原月は彼女の体から漂う良い香りを嗅ぎながら、顔を彼女の首筋に埋めて動かなくなった。

高橋真子はもう何も声を出さなかったが、「夫」という言葉が心の奥深くに沈んでいった。

彼は自分が彼女の夫だということをずっと知っていたのだろうか?

結婚するとすぐに彼女は送り出され、戻ってきたときには離婚協議書が待っていた。